「トトのために早く完成させたい。」森上さんがポツリをこぼした言葉を聞いて、切ない気持ちとともに熱いものがこみ上げてきました。トトちゃんはこの連載の主人公森上夫妻の愛犬で、メスのミニチュアシュナウザー、年齢は不詳。というのも、トトちゃん、そもそもは捨て犬でした。那須で夏のリゾートバカンスを終えた別荘族や観光客が、東京へ帰る際、東京のマンションには犬を連れて帰れないため、高速の那須インター付近で犬を捨てて帰る、所謂”那須ドッグ”と呼ばれる捨て犬が今問題になっています。トトちゃんもおそらくは東京のペットショップで売られていたところ、「夏の間だけ那須の別荘でペットを飼いたい」と思いついた下衆な人間に衝動買いされ、那須に連れて来られて夏の終わりとともに捨てられたのでしょう。どろどろになってさまよっているところを森上さん夫妻が偶然見つけて拾い上げ、家に連れて帰り、飼い始めました。森上夫妻の家づくりの現場には、寒い日も暑い日も、昼夜を問わずトトちゃんがいつも一緒です。森上夫妻が建築現場で仕事をしている時はいつも、リビングの一角に置いてある小さなベッドで夫妻の仕事が終わるのを静かに待っています。我が家にもトトちゃんと同じ犬種の愛犬がいますが、私たちふたりで庭仕事している時、家内が「ガク（我が家の愛犬の名前）も一緒に仕事できるといいのにね。」とこぼすことがあります。おそらく森上夫妻も同じ気持ちでトトちゃんを現場に連れてきているのだと思います。そんな森上夫妻が愛情いっぱいに育ててきたトちゃんに、この夏悪性のガンがみつかりました。精密検査の結果は、恐れていた最悪の事態で、「余命少なし」と獣医さんから宣告を受けました。冒頭の森上さんの発言は、宣告を受けた直後のものでした。同じ愛犬家として痛いほどその切ない気持ちは分かります。トトちゃんと一緒につくってきた家は、壁の石膏ボードが貼り終わり、ドアもついて、あと残すところ３割ほどの工程に入ってきました。幸いトトちゃんも元気そうなので、家の完成は一緒に迎えられることと思います。ご夫妻が現場で笑いながら、時に喧嘩しながら作業をする風景を、トトちゃんはこれからも静かに微笑みながらみつめていくのでしょう。

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現場で番犬するトトちゃん。ふだんはおとなしくあまり吠えないトトちゃんですが、なぜかガス屋のおいちゃんにだけは吠えまくるそう
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トトちゃんの現場での定位置、ご主人さまたちの休憩時間が待ち遠しい

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トトちゃんのため一日も早い完成をめざしてパテ塗りに励む佳代さん(右）と佳代さんのお姉さん（左）。お姉さんは出産前身重の体で応援に来てくれました
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室とリビングを仕切る壁の下部分はわざと石膏ボードを貼らずに開いたままになってますが、聞けばトトちゃんの通路だとか。愛が家のカタチとなったのだ